はじめに
普段慣れ親しんでいるサービスが、学生起業を経験した経営者が発信していることをご存知でしょうか。
スマートフォンが普及し、子どもから大人まで世代を問わず簡単につながれる現在では、学生が起業するハードルは下がり、チャレンジしやすい世界になりました。
しかし、起業へのリスクを懸念し、なかなか踏み切れない学生も多く見受けられます。
学生起業に必要な手続きから、メリットやデメリットまでくわしく紹介していきましょう。
起業に必要なもの
一口に起業と言っても、会社の在り方はさまざまです。
会社は大きく分けて個人事業主と法人に分けられ、個人事業主とは法人を設立せず、個人で事業を営むことです。
そして法人は個人事業主以外で法人格が与えられていることを指します。
今回は法人を設立するという前提で、必要な基本的な手続きについて7つのステップに分けて説明していきます。
「起業をしたいけれど何から手をつけたら良いかわからない」という方は、ぜひご一読ください。
事業計画
まずは、事業計画書を作成します。
出資や融資を受ける投資家や金融機関に提出するために、事業計画書にはビジネスモデルやコンセプト、資金計画などを記入します。
しかし、ただ頭の中のアイデアを漠然とつづれば良いというわけではありません。
まず、ビジネス案や課題を誰が見てもわかりやすい内容にまとめる必要があります。
そして、ターゲット層になる顧客は存在していて集客の見込みがあるのか、そしてコストと収益のバランスが取れていて、ビジネスとして実現性があるのかを強調しなければなりません。
事業計画書を作成すれば出資者へのプレゼンの際に役立つだけでなく、自分の考えを可視化していく過程で、問題や抜け漏れを確認できます。
事業計画書はビジネスを始めるうえで非常に重要なので、時間をかけてじっくりと納得いくものを作成しましょう。
事業資金
事業計画書を作成したら、資金を集めなければなりません。
起業のために資金は不可欠であり、自己資金で賄えない分を調達する方法はいくつかあります。
まず、出資や融資を受ける方法です。
出資とは、投資家やベンチャーキャピタルから事業の将来性を見込んで資金調達することです。
返済の必要がなく、保証人を立てる必要がないなどのメリットはありますが、株式投資の場合経営権を部分的に譲渡する必要があるなどのデメリットもあります。
融資は、金融機関からいわゆる借金をすることです。
経営権の譲渡もなく多額の資金調達も可能ですが、利子を上乗せして返済する、個人保証が必要などのデメリットも考慮しなければなりません。
また、クラウドファンディングという方法もあります。
インターネット上で不特定多数の人に資金提供を呼びかけ、サービスや商品の趣旨・個人の想いに賛同した人から資金を集める方法です。
通常なら難しい発案も熱意次第では予算達成でき、出資者にも何かしら還元を与えることで社会的意義を与えられるというメリットがある反面、管理コストが高い、アイデアを盗用されるリスクがあるなどのデメリットがあることも理解しておく必要があります。
原始定款
資金調達ができたら、原始定款を作成しましょう。
原始定款とは会社の目的や組織、活動などに関する基本的なルールを定めたものです。
合同会社の場合認証を受ける必要はありませんが、株式会社の場合において作成した原始定款は、公証役場で公証人の認証を受けなければなりません。
原始定款の内容を決めるのは「発起人」つまり、事業設立時の出資者であり株主となる人物です。
定款は、必ず記載しなければならない内容(絶対的記載事項)・取り決めた場合には必ず記載しなければならない内容(相対的記載事項)・任意で記載する内容(任意的記載事項)の3つで構成されます。
絶対的記載事項は5つ定められており、以下がそれにあたります。
①商号
②事業目的
③本店所在地
④設立時に出資される財産の価額(または最低額)
⑤発起人の氏名(名称)及び住所
資本金の払込
原始定款を作成したら、資本金を払い込みます。
資本金払込とは、資者が会社に払い込んだ資金を、自社の銀行口座に払い込むことを指します。
そのとき、まず発起人の個人の口座を設立することから始めてください。
この時点で企業は発足していないため、発起人の個人口座となるのです。
出資者が数人いる場合は総代を決めて用意します。
そして、資本金を振り込む際は必ず預入ではなく振込となるように注意しましょう。
通帳に払い込んだ発起人の氏名が記載される振込で、誰がいくら出資したかを証明する必要があるのです。
払い込みが済んだら、通帳もしくはインターネットバンキングの場合は取り引きの履歴がわかる箇所のコピーを取って、払込証明書を作成し、一緒にファイリングしておきましょう。
設立登記
資本金払込が終わったら、会社の登記をしましょう。
これは法律で義務付けられているため、必ず行わなければならない手続きです。
目的や本店所在地、資本金の額などについて記入した設立登記申請書を作成し、法務局へ提出し一般に開示できる状態にするのです。
一般的にまずは同一の所在地に同一の称号がないか、事業目的が法的に問題がないかなどを確認したあと、会社の法人実印を作成し、発起人全員の印鑑証明書を取得してから法務局にて手続きを行います。
必要な書類は「設立登記申請書」や「定款」のほか、「登録免許税納付用台紙」「発起人決定書(発起人が複数の場合は発起人会議事録)」「代表取締役等の就任承諾書」「取締役の印鑑証明書」「印鑑届書」「出資金の払込証明書」です。
登記申請をして問題がなければ7~10日で登記が完了します。
法人設立届出書
登記が終わったら、法人設立届出書を作成し、提出します。
法人設立届出書とは会社の概要などを記入したもので、こちらも法律で定められた通り、税務署と都道府県税事務所の両方に必ず提出しなければなりません。
様式は定めされており、税務署などで取得できるほか、国税庁ウエブサイトからもダウンロードが可能です。
書類は提出用と会社控用の2部をそれぞれ作成し、1部は企業で保管しておくことをおすすめします。
添付書類として、原始定款のコピーが必要になるので準備しておきましょう。
都道府県に提出する際は加えて、登記事項証明書の添付も必要になります。
届け出書の提出期限は、登記から2ヶ月以内とややタイトなスケジュールであるため、提出期限を守れるように前もって書類を準備しておくと良いでしょう。
社会保険
無事企業が設立されたら、社会保険の手続きをしましょう。
社会保険とは「健康保険」「厚生年金保険」「介護保険」「雇用保険」「労災保険」の総称で、企業を設立したら、会社の規模や社員数を問わず加入することが法律で義務付けられています。
未加入の場合は、過去2年にさかのぼって徴収されたり、罰則を受けたりする可能性があるので、多忙であっても必ず加入手続きをしましょう。
健康保険と厚生年金の加入手続きは、会社設立から5日以内に会社所在地を所轄する年金事務所に届け出ます。
労災保険は、従業員を雇った場合のみ、企業の所在地を管轄する労働基準監督署に提出をします。
雇用保険は週20時間以上勤務する従業員を雇った場合のみ、ハローワークに申請してください。
学生起業のメリット
このように、起業する際には資金の調達に加え、多岐にわたる書類作成などの莫大な労力が必要となります。
いい加減な手続きをすれば、のちに法的に罰せられるリスクもあるのです。
「授業やサークル活動、アルバイトで十分に忙しいし、自分には無理かもしれない」と尻込みしてしまう学生も多いでしょう。
しかし、学生のうちに起業することでしか得られない、大きなメリットもたくさんあります。
学生起業をするメリットについて大きく3つにまとめたのでご覧ください。
大学を活用できる
まず、大学生であることを名実共に、十分に活用できます。
大学にいる、さまざまな分野のプロフェッショナルである教授にアポイントを取るのも比較的容易であり、アドバイスを受けられるだけでなく、図書館にも莫大な量の書籍があるため情報収集をしやすい環境です。
さらに経営やビジネスの分野の講義が受けられるなら、講義で得た知識を実際の現場で活かすこともできます。
また、最近では学内に「インキュベーションセンター」や「アントレプレナーシップセンター」などの学生起業を支援するシステムがあり、シェアオフィスの提供や法務や税務の専門家の紹介を行っているので活用するのも良いでしょう。
大学が主催している事業コンテストで入賞すれば、賞金を手に入れられる可能性もあります。
そして何より、大学生起業家としてのネームバリューは企業のPRにおいて、非常に効果的です。
「学生起業家」を名乗ったSNSアカウントでつぶやき、話題になれば企業の宣伝にもなります。
副業にできる
学生のうちに設立した企業が、就職後副業として収入になるケースもあります。
事業がある程度軌道に乗ってきて、収益を得られるサイクルができれば、大学を卒業し就職したあとも、副業として続けられます。
厚生労働省がモデル就業規則を改定し、副業禁止の文言を廃止しました。
それに加えて、2020年の新型コロナウイルスのまん延により、テレワークが推奨や営業時間の短縮などにより今までよりも収入が減るケースも多く見られたため、近年では副業へのハードルが下がったのです。
誰もが知る大企業でも、副業を推進している例が見られます。
副業としてなら事業の収益へのハードルも低いため、気軽に始められます。
また社会人になってから起業することももちろん可能ですが、学生に比べて圧倒的に時間の融通が利かなくなるため、本業と両立させながら起業に向けた多くの手続きを進めるのは、非常に苦労するでしょう。
いずれは副業として起業したいと考えているのであれば、学生のうちにスタートさせておいたほうが賢明です。
失敗しても就活に活きる
起業した経験そのものが、就活で評価されるのも、学生起業をする大きなメリットの1つです。
何万人という学生が起業していても、当然すべてが成功をおさめているわけではありません。
「浅い知識しかないのに勢いだけで起業してしまった」「融資金額が大きすぎて返済できなくなった」または「投資家に利用されてしまった」など、倒産の理由はさまざまです。
しかし、起業でもし失敗してしまったとしても、自分で企業を立ち上げ経営しようと努力した経験は唯一無二のものです。
起業するまでの過程や、失敗まですべてが確実に今後の成功の糧となります。
起業経験の行動力や主体性や目標設定地の高さ、そして何よりも学生でありながら具体的なビジネスの経験をしたことは、戦略的コンサル事業を始めとして、多くの業界で就活の際に高く評価されるエピソードです。
しかし、大学4年生だと時期的に就活のアピールには手遅れとなってしまいます。
就活でネタにしたいのであれば、なるべく大学1~2年次、遅くても大学3年の春には起業しておく必要があります。
学生起業のデメリット
このように、学生起業は社会人で起業するよりも圧倒的に有利な環境に恵まれ、なおかつ経験そのものが就活の強いアピール材料となるというメリットがあります。
しかし、起業はメリットだけを見て、気軽に始めてはいけません。
当然、負うべきリスクやデメリットに関しても考慮したうえで、慎重に判断する必要があります。
学生起業を成功させるためにも、考えられるデメリットを3つにまとめましたので、起業を考えている方はぜひ一読して、リスク回避に役立ててください。
資金の調達が困難
まず、資金の調達が困難であることは覚悟しなければなりません。
学生は自己資金が乏しいだけでなく、社会的な信用度も低いため、一般の金融機関から融資を受けるのが困難です。
国や自治体など公的機関が設けている補助金・助成金制度を活用する方法もありますが、手続きが非常に困難で、採択されたとしても着金まで半年から1年という長いブランクが空くため、運転資金としては不向きかもしれません。
また、近親者から贈与を受ける場合も贈与契約書があり、なおかつ両親の財務状況が安定していれば、自己資金と認められることがあります。
しかし、贈与金が110万円を超えると贈与税が発生することを考慮しなければなりません。
必然的にクラウドファンディングや、SNSで投資家にアプローチするか、日本政策金融公庫という保証人の必要のない機関で融資を受ける方法がメインとなっています。
投資家からの悪質な詐欺被害はあとを絶たないため、信用に値するかどうかは慎重に判断しましょう。
起業するための知識が乏しい
まず、企業のための知識量が少ないのは大きなデメリットと言えます。
大学生は体力面や時間の面では社会人に比べて有利かもしれませんが、ビジネス経験がないため、どうしても専門的な知識やスキルが不十分になってしまう面はあります。
「法人化したほうが得らしい」という浅はかな知識で起業すると、毎月の固定費や税金、保険料を支払えず倒産するおそれがあるのです。
また、スキルがないと起業後のPRや市場調査が不十分に終わり、事業が失敗に直結してしまうおそれもあります。
良いサービスや商品も認知度が低ければ、集客は望めません。
起業の案はあるけれどノウハウがわからないという学生は、ベンチャー企業の長期インターンに参加することをおすすめします。
まだ規模の小さい企業で会社や流通の仕組みを学ぶことで、今後の事業のビジネスモデルに反映させられます。
また学生起業失敗の事例を見て二の足を踏まないようにリスク回避をする、インターネットのマーケティングサービスを利用して市場調査をする、事業計画を入念に練り直すなど事前準備を入念にすれば、インターンに参加せずとも事業を成功させることは可能です。
学業がおそろかになる
学業との両立が難しいのもデメリットの1つです。
起業するためには、多くの手続きをタイトなスケジュールで進めなければなりません。
そして、当然のことながら起業は単なるスタートに過ぎません。
企業をローンチしたのであれば、取締役として企業を運営していくために、責任ある言動や行動が日々求められていきます。
このような状況下で、学生の本業である学業で良い成績をおさめるのは、非常に困難と言えるでしょう。
現に、立ち上げた事業が大きく成長したために大学を中退した有名な学生起業家も何人か存在します。
しかし、事業を軌道に乗せることも大切ですが、学生でしか学べないことも築けない人脈もあります。
事業が失敗した際に大学卒業の経歴があるかないかでは、再スタートをする際、ハードルの高さが大きく異なるでしょう。
大学卒業と高校卒業では、一般企業に入社する際に就業条件が大きく異なるのです。
学業と起業を両立させるためには、体力面でも精神面でも負担のかかる生活になることを覚悟しましょう。
世間からの評価
メリットだけでなくデメリットも多く存在する学生起業に対して、世間はどのように考えているのでしょうか。
学生起業は、決して珍しいことではありませんが「大学卒業後は企業に就職して定年まで働くべきだ」という古典的な考えの人はいまだに多く「就活をしないので楽をしたいのではないか」と思われるケースがあります。
また、少数ではありますが努力する人を冷ややかに見る学生からは「意識高い系で痛い」などの心ない言葉を陰で言われることもあるでしょう。
しかし、もちろん新しいことに挑戦するマインドを評価する人も多いことを忘れないようにしてください。
辛酸を舐めながら学生で起業した実業家は数多く存在します。
マジョリティーと異なる判断をすることで否定的な意見は当然出てきますが、惑わされることなく自分の事業に向けてまい進する覚悟をもちましょう。
大学4年で起業する人の割合
現在では大学生の起業家だけでなく、中高生の起業家もメディアで取り上げられるほど、学生起業は身近なものになりました。
現在、大学生の中でも4年生になってから起業する人は全体の1割程度といわれています。
多くのサイトでは、大学生企業に適しているのは「大学1~2年生」と記されています。
理由は、精神的や時間的、金銭的なしがらみにもっともとらわれない時期とされているからです。
大学3年生頃になると、周りの学生は就職活動の準備を始めるため、起業が自分にとって本当に正しい道なのか迷いが生じやすくなります。
また、大学4年次には「一般企業に内定が出て就職まで遊ぼう」という考えの学生が多いため、起業しようという学生の割合は自ずと少なくなるのです。
大学4年生へ
起業するか迷っている大学4年生がいるならば、なぜ迷うかを書き出してリストアップしてみると良いでしょう。
失敗を恐れて尻込みしているのならば、起業に失敗はつきものであるため、失敗しても諦めず続けるという固い意志が必要です。
しかし、失敗すれば職や社会的な信用を失うリスクがあるため、相当な覚悟をしなければならないのも事実です。
場合によっては家族に迷惑をかける可能性もあります。
学生起業は金銭的な利益だけでなく、人脈の構築や経験など得られるものも大きいが、その代償も大きいことを忘れてはいけません。
十分な資金や事業計画があるのならば話は別ですが、もし余裕がないのであれば起業をするなら大学は卒業し、就職したあとで生活面や資金面に余裕ができてから起業することを推奨します。
まとめ
学生起業について、さまざまな視点で説明してきました。
インターネットやSNSの普及でPRや資金調達のルートができたことで起業のハードルは下がりましたが、それにともない十分な準備をせず、勢いだけで起業し失敗する学生が多く見受けられます。
起業するということは、社会的に影響力のある立場に立ち、利益を生み出していくということです。
学生という甘えや理想論を捨てて、出資者や消費者に向けて十分に還元できるシステムを作る覚悟がなければ、成功は難しいかもしれません。
明治大学院卒業後、就活メディア運営|自社メディア「就活市場」「Digmedia」「ベンチャー就活ナビ」などの運営を軸に、年間10万人の就活生の内定獲得をサポート