はじめに
就職活動をするにあたって、どのような業界を選ぶかは非常に重要です。
なぜなら、業界ごとに身に付くスキルも仕事内容や形態もまちまちだからです。
今回のコラムでは、数ある業界の一つ、商社が、どんな業界なのかを紹介します。
【業界研究:商社編】商社ってどんな業界?
商社は、その名の通り商売を行う会社です。
商売といっても幅が広いですが、具体的には、対外的には輸出入などの貿易を、国内では卸売を行うことが多いとされています。
このため、一般消費者向けの小売りの場には直接的に顔を出すことがあまりないことが、特徴の一つです。
商社は、五大商社に代表される総合商社と専門的に取り扱う物品を定めている専門商社に大別されます。
総合商社の場合は、上述の商業活動に加え、金融業や情報通信業に活動範囲を広げていることもあるため、その業務内容は多岐にわたります。
【業界研究:商社編】商社の特徴
商社は貿易業を担うため、グローバル展開をしていることが多いことが大きな特徴です。
このため、商社勤務の場合は、雇用形態にもよりますが、海外転勤になる可能性が常に存在します。
大手総合商社では、業務内容に金融業を含んでいることも特徴です。
商社が金融業に参加することは、金融史を紐解いても、イタリアで誕生した初期の商業銀行以来続いている伝統だともいえることから、海外を含む多くの商社が金融業に参加しています。
中でも日本の商社は、戦後の高度経済成長で得られた大きな資金力を背景に、積極的に新規事業に融資を行って彼らの成長を促してきた伝統があり、比較的積極的に金融活動を行ってきたことが特徴です。
貿易産業や金融産業には、海外の経済危機や自然災害など、国内だけではとどまらないリスク要因が存在します。
それを受けて、いくつかの商社では、独自に保険業を営んでいるケースもある点が特徴的だといえるでしょう。
また、商社から切り離された保険会社であっても、ルーツが商社運営の保険であった場合、現在でも子会社になっていることもあります。
特に大手の総合商社は、グローバルネットワークを一つの強みとしており、かつ商社自体にとってもそのようなネットワークの維持が業務上重要になってくるため、情報網を運営する情報サービスにも参加する傾向があります。
この場合も、保険業同様、場合によっては商社本体ではなく、独立した子会社が業務を担っている場合がある点も特徴の一つです。
情報サービスや保険業において、子会社に触れましたが、大手総合商社は業務内容が多岐にわたるため、しばしばこのように内容別に子会社として会社を分けていることがあります。
業務実績が伸び悩んでいる場合や本社とは異なる場で活動したほうが業績を伸ばせると判断された場合などには、商社本社に入社しても、子会社での出向勤務を求められる可能性がある点にも、注意が必要です。
【業界研究:商社編】商社の企業例
商社の中でも最も有名なのは、国内の業績最上位を占める、いわゆる五大商社でしょう。
この内、三菱商事、三井物産、住友商事の3つは、かつての四大財閥の流れ汲んでおり、経済界では名門中の名門の血筋にあたります。
商社としての形が最初に整ったのは、日本橋の越後屋からスタートした、商人にルーツを持つ三井で、19世紀の末にはすでにその形が整っていたといわれています。
それに続いたのが、政府と親密な関係を築くことによって、明治に入ってから一代で財を成した三菱財閥の流れを汲む三菱商事です。
三菱の取引量が第一世界大戦中に増加したことを受けて独立した三菱商事は、三井物産と並び、財閥系の商社として大いに成長しました。
いずれも、第二次世界大戦で敗戦した後、GHQの財閥解体の一環により多数の会社に分裂しましたが、1950年代には復活し、現在に至るまで国内トップクラスの業績を維持しています。
この意味でも、三井と三菱は、戦前から続く名門商社の代表例だといえるでしょう。
これに対して、同じ財閥系でも、住友商事は戦後、財閥再編の一環として、海外に出ていた財閥系の人材を引き受ける職場にするべく、応急的に設立された経緯があります。
これは、大正時代、住友では商事会社設立を禁止する社内宣言が、当時の総理事だった鈴木馬左也によって出されていたためで、設立が遅かったため、一時期は「遅れてきた商社」と揶揄されていたこともあります。
その住友のルーツになっており、かつては本社も置かれていたのが大阪ですが、大阪が元々商人の町として育ってきたこともあり、財閥系ではない残った2つの五大商事も、いずれも大阪発祥です。
伊藤忠商事は、2016年に、三菱商事の不振もあって一時期業界最大手に躍り出たことで、注目を集めた商社です。
創業者は初代伊藤忠兵衛で、関西五綿と呼ばれる、関西の大手繊維会社が、その母体となっています。
歴史的には、かつては住友財閥系と親密でしたが、戦後は徐々に第一銀行に接近し、銀行業界の再編を経て、現在は旧安田財閥系の富士銀行なども合流した、みずほグループに属しています。
五大商事の最後の一つとなる丸紅は、実は創業者が伊藤忠商事と同じ初代伊藤忠兵衛であるため、伊藤忠とは同根です。
このため、伊藤忠商事とは別の会社になってからも、戦時中に大建産業として統合されたり、両社の鉄鋼製品部門を統合して、伊藤忠丸紅鉄鋼が2001年に独立した会社として創設されたりなど、伊藤忠商事とは比較的密接な関係にあります。
これらの総合商社は、東京大学や早稲田大学、慶應義塾大学の出身者を最も多く採用する傾向があります。
中でも慶應義塾大学の出身者は、五大商社すべてで一貫して最も多く採用される傾向が強いです。
実際、2019年度の採用実績と30年間の長期的な採用実績のいずれで見ても、五大商社すべてでトップに立っています。
とはいえ、これら早慶や東大以外でも、京都大学などの旧帝国大学や一橋大学、MARCHからも毎年ある程度の人数が採用されているため、MARCH以上の大学在籍者であれば、チャンスは0ではないといえるでしょう。
また、商社自体はこれら五大商社以外にも多数存在しますので、チャンスが少ないと思われる場合、他の商社を探してみることも選択肢の一つです。
【業界研究:商社編】商社に向いている人の特徴
商社の業務内容は多岐にわたっているため、商社に向いている人材も、業務内容ごとに分かれます。
貿易や流通を担う場合、特に営業として外部企業などを相手に交渉を行う場面には、コミュニケーション能力が高い人で、可能であれば語学の学習能力も高い人が適しています。
一方、最適な商業戦略を考えるべくマーケティング活動を行う部署では、データを適切に分析したり処理したりすることのできる人材が適しているといえるでしょう。
この場合も、海外のデータなどを正確に理解する必要がある場合は語学力があったほうがさらに望ましいですが、それ以上に、コンピューターを用いた解析ツールの利用などに強いことが重要視されることになります。
金融部門で、融資先を考える場合は、融資先がどれくらい成功する可能性があるか、適切に判断する能力が必要になります。
資金が潤沢にあった頃は、現在のエンジェル投資家のように、100の融資先の内1つが大いに成功すればよいという考え方の下、寛容な融資が実施されてきました。
しかし、高度成長をすでに終えている日本の商社が、さらに桁1つ増すような大成長を遂げることは基本的には考えにくく、融資に失敗したからといって後で成功したケースから資金を回収すればよいなどという悠長なことはなかなか言えなくなってきています。
このため、今商社の金融部門に入る場合は、昔以上に成功可能性を正確に予測するスキルが必要になることでしょう。
リスクを判断して保険料の設定や加入の可否を定めることとなる保険部門においても同様に、正確なリスク予測を立てるスキルがある人材は向いているといえるでしょう。
これらの部門では、具体的には、経済学、経営学およびデータ解析の素養を幅広く持っている人材が望ましいというわけです。
情報部門に入る場合は、より高速かつ正確に稼働する情報システム開発を担うこととなりますから、ネットワーク理論やプログラミングなどにおける専門的な素養が求められます。
また、海外支社の外国人社員と協力してシステムを開発することとなる場合もあるでしょうから、最低限専門分野関連の話題については英語でも話せる人材のほうが、一切外国語を話せない人材よりも望ましいでしょう。
さらに、難解なコーディング作業などに、長期的に集中できる持続力や意欲の高さがある人材も、情報部門には向いているといえます。
このように、想定している部門がはっきりしている場合は、向いている人材の特徴も比較的明確です。
しかしながら、場合によっては、入社後異なる部門を複数経験することも十分にあり得ます。
海外転勤の可能性と並び、このことは他の企業ではできない多様な経験ができるチャンスがあることを意味しています。
そのため、さまざまな経験を積んで自分のスキルを成長させたいという意欲が強い人には、総じて向いているといえるでしょう。
【業界研究:商社編】商社で身に付くスキル
商社の業務内容が多岐にわたっているため、商社で身に付くスキルもまた、多岐にわたっています。
ただ、グローバル展開している関係上、多くの場合において、語学スキルは共通のスキルとして磨くことができる可能性が高いです。
それ以外に身に付くスキルは、各部門に向いている人材を説明するにあたって述べた各種スキルに、おおよそ呼応します。
営業部門であればコミュニケーションスキルが、マーケティング部門であればデータ解析スキルが、金融部門や保険部門であれば経済学や経営学などのスキルが、そして情報部門であれば、プログラミングスキルなどが、それぞれ身に付くこととなります。
個々の部門では個々のスキルしか得られません。
しかし、長年勤務し、社内の複数部門での活動をまたいだ場合は、幅広いスキル一式を身に付くることが可能です。
結果として、いざとなればほとんどどんな業界にも転職できるだけの、汎用性の高い総合的な人材になれることが、商社ならではの特徴だといえるでしょう。
【業界研究:商社編】まとめ
総合商社に代表されるように、商社は、貿易や国内卸売を中核事業としつつも、金融、保険、情報など多岐にわたる産業領域での活動を展開する傾向があります。
このため、商社の受け皿となり得る人材も多種多様で、いざ入社してしまえば身に付くスキルもそれだけ多様になる可能性があります。
換言すると、商社は、成長を希望する人にとってはチャンスの塊なのです。