人手不足業界の現状と今後について|新卒・転職者に役立つ情報を解説

人手不足業界の現状と今後について|新卒・転職者に役立つ情報を解説

はじめに

昨今、様々な業界で「人手が足りない」「人材不足だ」などの声を聞く機会が増えていませんか?バブル崩壊あたりからすでに予測されていた懸念事項が、肌感覚でもわかるような時代に突入してきていると実感されている方も多いのではないでしょうか。

今回は特に人手不足が深刻と言われている、医療・福祉業界、飲食業界、宿泊業界、建設業界、製造業界、運送・流通業界、IT業界の7つの業界についてスポットを当てて、人手不足の問題を深堀りしていきます。

この記事を読むことで、各業界の問題点、今後の展望、改善への取り組み、メリット・デメリットを把握することができます。

進路について悩んでいる方や転職を考えている方、7つの業界のいずれかに興味を持っている方などは参考にしてください。

人手不足は深刻化している

現在、少子高齢化や都市部への人口集中などの影響により、業界によっては人手不足が深刻化しています。

企業における人手不足感を見るため、中小企業庁・(独)中小企業基盤整備機構「中小企業景況調査」を用いて従業員数過不足DIの推移を確認すると、深刻さがわかりやすいでしょう。

この指標によると、全業種において2009年に従業員の過剰の割合がピークになり、そこから総じてマイナスに転じています。2013年第4四半期以降、全ての業種において従業員が不足と答えた企業の割合が上回っていることがわかります。

出典:第1章 深刻化する人手不足の現状|中小企業庁 参照:https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/H30/h30/html/b2_1_1_0.html

【2022年版】人手不足業界の要因と今後について解説

人手不足になっている大きな背景は、少子高齢化や団塊世代の一斉退職、雇用の待遇の低さ、転職機会の増加、人材のミスマッチなど様々です。

国は働き方改革や少子化対策などの施策を行って人手不足の解消を狙っていますが、効果が得られるには時間がかかる上に、劇的な解決策を見出せていない状況です。

特に新型コロナウイルスの影響によって、ここ2年程度で働き方や労働への意識が激変しています。アフターコロナも考慮した今後の展望を業界ごとに見ていきましょう。

  • 医療・福祉業界
  • 飲食業界
  • 宿泊業界
  • 建設業界
  • 製造業界
  • 運送・流通業界
  • IT業界

医療・福祉業界

「今年度より看護職員の採用を増やす予定」と回答した病院は3割程度と結果が出ました。そのため、医療従事者は人手不足の業界だといえます。

また、全日本自治団体労働組合の調査で、新型コロナウイルスの流行により「離職を検討している」と答えた医療従事者が7割程度いるという危機的状況が判明しました。

医療・福祉従事者は業務量が多く、勤務体制が不規則、医療事故への不安などから、離職率が高く人手不足が深刻です。毎年の離職率は正社員が11%程度、新卒が7.5%程度で推移しており、良くなる見込みがありません。

超高齢化社会に突入し、医療・福祉従事者の成り手自体が減少していますが、医療・介護を必要とする人口は増える一方であるため、今後も人手不足は進行していくと予想されます。

こうした状況を変える方法を挙げてみます。

・残業手当や深夜手当、休日出勤手当等の各種手当を充実させることで、しっかりと労働した分が給与に反映されるシステム作り ・ライフスタイルを考慮した柔軟な働き方(時短勤務、夜勤免除など)をすることで、各家庭の事情に適したサポートができる環境を作る ・デジタル機器やAIの活用(検温や検査をAIが実施、オンライン診察など)によって、医療・介護従事者の負担を減らしていく

人手不足を解消するには、医療・介護従事者の負担を減らし、働きやすい環境を整えていく事が必要だといえるでしょう。

出典:「2018年 病院看護実態調査」 結果|公益社団法人日本看護協会 参照:https://www.nurse.or.jp/up_pdf/20190515134543_f.pdf

出典:公立・公的医療機関の医療従事者の7割が離職の検討を経験/自治労アンケート調査|独立行政法人労働政策研究・研修機構 参照:https://www.jil.go.jp/kokunai/topics/mm/20220330c.html

飲食業界

飲食業界では、新型コロナウイルスの影響で人員削減や休業せざるをえない状況から規制が緩和され、通常の営業体制に戻ってきています。

コロナ禍で人員を減らしたが、通常時になっても従業員が戻ってきていないという店舗がほとんどです。アルバイトが特に不足していると感じている経営者が多く、コロナ禍で帰国してしまった外国人労働者の穴埋めもできていない状況です。

外国人労働者が以前の水準まで回復するには、まだまだ時間がかかるとみられているため、飲食業界も多大な影響を受けると予測されます。

また、賃金を上げて人員を確保しようとする店舗が増えましたが、「賃金上昇の影響がない」と感じている店舗も多く、人手不足解消の決め手になっていません。

人員確保に成功している店舗の例として、業務の効率化・簡素化(チケット券売機の導入、メニューを絞る、注文のデジタル化など)、インセンティブ付与や賞与の導入が挙げられます。以上のことから、今後は賃金アップだけでなく複合的な対策が必要といえるでしょう。

宿泊業界

コロナ前の「人手不足等への対応に関する調査」では、宿泊業界の8割程度の企業が人手不足との回答結果がでていました。

コロナ禍の2021年7月に帝国データバンクが行った「人手不足に対する企業の動向調査」では、宿泊業界の非正規社員は人員不足業種ランキング上位10位以内に入っているのに対し、正規社員は過剰人員ランキングの1位となっています。

コロナ禍では非正規社員がリストラされて、正規社員は守られたが、それでも人員過剰という状況でした。

規制緩和され、国内外の旅行者も増加してきていますが、当然リストラされた非正規従業員が業界に戻る例は少なく、既に人材確保に苦労している所が増えています。コロナ禍が終焉に向かえばさらに人員不足になると予測されます。

厚生労働省の「令和2年雇用動向調査結果の概況」に、入職率、離職率ともに宿泊業界が1位との結果がでています。入職率が高く働きたいと思っている労働者が多いのに、定着しないのはもったいないと言えるでしょう。

コロナ禍以前から慢性的に人手不足の業界ですが、人気の業界でもあるため、低賃金や労働環境を改善し離職率を下げることが重要です。

出典:人手不足等への対応に関する調査|日本・東京商工会議所 参照:https://www.jcci.or.jp/hitodebusoku.pdf

出典:人手不足に対する企業の動向調査|帝国データバンク 参照:https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/pdf/p210806.pdf

出典:令和2年雇用動向調査結果の概況|厚生労働省 参照:https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/21-2/dl/gaikyou.pdf

建設業界

東京五輪に続き、大阪万博などの大型プロジェクトが多く活況な建設業界ですが、人手不足に悩む業界です。他業界とは違う形の人手不足が深刻化しています。

国土交通省によると、建設業就業者の割合は55歳以上が34%程度、29歳以下が11%程度と若年層が少なく顕著な高齢化が進行しています。単純に人手不足ということだけではなく、若年層の入職率が非常に低いことも深刻な問題となっているのです。

60歳以上の建設業就業者80万人程度については10年以内に引退すると見込まれているため、若年層の就業者を増やすことが急務の業界です。

2025年には建設業就業者が90万人程度も不足するとの試算もあり、仕事はたくさんあるが、仕事を受注できないという会社が増えてくると予想できます。

昔から建設業界は「きつい、汚い、危険」の3Kのイメージがあり、近年ではさらに「厳しい・帰れない・給料が安い」の意味も加わって敬遠される業界となってしまっています。

以上のことから改善点は明らかで、旧態依然から脱却し、悪いイメージを払拭しなければ若者の雇用につながりません。

しかし、悪いイメージを払拭するにはかなりの時間と労力を要します。労働環境の改善や賃金のアップはもちろん、工期の適切化、ICT建機の活用による効率化など改善点が多く、長期的な視点で見ていくことが必要でしょう。

将来的にはICT建機や建設ロボットなどを活用し、少人数で事業を維持できる体制を作っていくことが重要です。

出典:建設産業の現状と課題|国土交通省 参照:https://www.mlit.go.jp/common/001187379.pdf

製造業界

経済産業省によれば、大手企業・中小企業のうち9割以上の企業が「人手不足が顕在化している」の結果が出ています。

製造業従事者は2002年〜2020年までの18年間で157万人程度も減少しています。この大幅な減少はコロナ禍と一致しており、製造業にも多大な影響を与えています。

全産業に占める製造業の若年就業者の割合は2020年時点で24.8%と低く、若年層が減少し続けていて、将来を担う人材が育っていない状況です。熟練技術者とされる高齢者層からの技術継承は経験に依存していることが多いため、定着率が低いと難しくなるのも問題点です。

今後は、熟練技術者の経験に頼っていた業務をITやIoT、AIなどを活用し、「スキルの見える化」をすることで業務の標準化を可能にして、誰でも同じように仕事ができるようにすることが人手不足の解消につながるでしょう。

また、外国人労働者の受け入れ拡大やシニア層の再雇用などを積極的に行い、柔軟な雇用制度を導入することも解消の一手になり得ます。

出典:製造業における人手不足の現状および外国人材の活用について|経済産業省 参照:https://www.jifma.or.jp/member_file/news/%E5%8F%82%E8%80%83%E8%B3%87%E6%96%99%E2%91%A4-%EF%BC%92%E8%A3%BD%E9%80%A0%E5%88%86%E9%87%8E%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%91%E3%82%8B%E5%A4%96%E5%9B%BD%E4%BA%BA%E6%9D%90%E3%81%AE%E5%8F%97%E5%85%A5%E3%82%8C.pdf

出典:第2章 ものづくり人材の確保と育成|経済産業省 参照:https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2021/pdf/honbun_1_2_1.pdf

運送・流通業界

インターネット通販や物流量の増加によって、年々人手不足が深刻化してきています。特にコロナ禍においては巣ごもり消費の影響で、通販だけでなく、ネットスーパーやフードデリバリーなどの需要も増えており、需要と供給が合っていない状況が続いているのです。

物流量が増えたことで、フォークリフト運転者・ピッキング担当・倉庫従事者なども不足しています。物流業界では24時間体制で業務にあたっていますが、ハードな上、不規則な勤務体系の仕事のため離職率が高く、慢性的な人手不足の状況です。

運送・流通業界ともに労働者一人あたりの仕事量が増加し負担が増え、ミスやサービスの低下に繋がるという悪循環に陥っています。現状のサービスの在り方を大幅に見直さない限り、改善に向かうことはないでしょう。

エンドユーザーの理解を得るのは難しいですが、当日配達、時間指定、送料無料、再配達などの過剰なサービス競争を改革し、働き手の負担軽減と労働環境の見直しが必要です。

IT業界

IoT、AI、SNS、メタバース、テレワークなどの拡大に伴い、IT業界の市場は拡大を続けており、エンジニアの需要も増加しています。しかし、経済産業省の調査では、2015年ですでに17万人程度、2030年までに59万人程度のエンジニアが不足すると推計されています。

ITエンジニアは仕事場に長時間拘束され、延々とコードを書く、バグの対処で年中無休といった悪いイメージが定着してしまったため、きつい仕事と避けられる傾向にあるようです。

ゼネコンが下請企業に仕事を丸投げするという、建設業界によく似た多層式の産業構造になっており、単なる作業員扱いをされることからIT土方という言葉が生まれるような構造上の問題点も、避けられる原因となっています。

世界の先進国に比べ給与が安く、使い捨てのような働き方が横行しているため、入れ替わりが激しい業界です。技術の移り変わりも早く、常に勉強してスキルアップをしないといけない業界のため、技術の更新に疲れてしまうということもあります。

まずエンジニアの待遇改善をしなければ、優秀な人材は海外に出て行ってしまいますし、外国人の雇用拡大も難しいでしょう。

業界未経験の採用枠を拡大し、自社でプログラミングの教育に力を入れて行く企業も増えています。国もエンジニア育成に力を入れているため、将来的にエンジニアの不足を緩和・改善していく可能性があります。

出典:IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果~ 報告書概要版 ~|経済産業省 参照:https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/daiyoji_sangyo_skill/pdf/001_s02_00.pdf

人手不足業界のデメリット

ここまで7つの人手不足の業界の現状、原因、今後の展望を見てきました。コロナ禍によって労働者の働き方の意識にかなりの変化があり、現在は人手不足ではない業界も今後は人手不足に陥いる可能性も大いにあります。

人手不足によって引き起こされるデメリットを見ていきましょう。

  • 社員のモチベーションが上がりづらい
  • 長時間残業で休みも少なくなりがち
  • 事業継続が困難になる恐れがある

社員のモチベーションが上がりづらい

人手不足に陥ると、従業員一人にかかる仕事量や精神負担、責任などが確実に増えていきます。日々の業務に追われると創造性が発揮できず、淡々と目の前の業務をこなすだけという状況に陥りやすいのです。

ストレスを感じやすくモチベーションの低下につながり、「自分だけ仕事量が多い」などと考える従業員が増え、職場内での不協和音も引き起こす原因にもなり得ます。

長時間残業で休みも少なくなりがち

長時間労働も問題となります。例えば、二人でやっていた仕事を一人でこなさなければいけないため、日々の業務が長時間化します。

残業が増え休日出勤するなど、休暇がとれなければ心身に負担がかかり、病気や体調不良を引き起す原因になるでしょう。

事業継続が困難になる恐れがある

人気のない業界では人材を確保することが困難になっており、求人募集をしても全く応募がないということもよくあるのです。

厚生労働省の「企業倒産の状況」によると、求人難による倒産の数が毎年増加しています。人手不足は、黒字だが人手が足りないという黒字倒産や、後継者不足の倒産なども引き起こします。

出典:第1-(1)-9図 企業倒産の状況|厚生労働省 参照:https://www.mhlw.go.jp/stf/wp/hakusyo/roudou/20/backdata/1-1-9.html

人手不足業界のメリット

人手不足業界の悪い面ばかりが取り上げられがちですが、良い面というのもあります。良い面を見ようとすることで、就職活動や転職の選択肢が大幅に広がります。

働き手があえて不人気業界に飛び込むメリットとは何か、見ていきましょう。

  • 業界未経験でも正社員として就職できるチャンスがある
  • 待遇改善や業務効率化が進んできている
  • ICT化が進み労働環境が変化する可能性がある

業界未経験でも正社員として就職できるチャンスがある

人手不足の業界は人材を確保することが困難なため、業界未経験者やブランクのある求職者でも採用される可能性が高いのが特徴です。正社員の経験がなく、社会人経験が乏しい求職者でも正社員になれることも多く、人手不足業界で社会人経験を積めるメリットがあります。

人の出入りが激しいため、ポストが空きやすく昇進や昇給するのも早い業界です。自分にあった業界を見つけられれば、活躍のチャンスが広がります。

待遇改善や業務効率化が進んできている

人手不足になる原因は、労働環境の悪さや低賃金、長時間労働などですが、近年これらを改善しようと職場のホワイト化に取り組む企業が増えています。待遇改善や従業員の負担を減らすために、設備投資をして効率化を図るなど努力している企業は多いのです。

人手不足業界=労働環境・待遇が悪いと決めつけずに、しっかりと各企業の取り組みや働き方、企業風土などを調べると良いでしょう。

ICT化が進み労働環境が変化する可能性がある

現在多くの業界が業務の効率化・自動化による人手不足の解消を積極的に進めています。しかし、業界ごとに進捗率のバラツキがあり、旧態依然の業界もまだまだあります。

コロナ禍を機にリモートワーク、企業拠点の見直しなどの働き方改革をした企業が増えました。デジタル庁も契約業務、押印業務の電子化を進めるような方針をだしており、企業も同じ方向に向かっています。コロナ禍は変革のチャンスとも捉えられます。

ICT化が浸透していけば今後労働環境に大きな変化をもたらし、働き方の選択肢が増えると予想されています。

人手不足業界の特徴を理解し就職活動に活かす

これまで人手不足業界のメリットとデメリットを見てきました。

最初から人手不足業界ということだけで就職の選択肢から除外せず、しっかりと業界について知ることによって就職活動がしやすくなります。

広い視点で見てみると、意外な出会いや将来が見つかる可能性があるでしょう。

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